芸術的原体験
わたしの芸術的原体験を話そうと思います。
よく考えたら、先生にさえこの話はしてない気がします。
それにはまず、小学生の頃のわたしの事を簡単に説明しなくてはなりません。
わたしは、しょっちゅう別の男の子を好きになる子供でした。今思うと、どうしてそうだったのかよく分かりません。とりあえず、ませているという事だけは分かります。あの子が好き、振られる、この子が好き、振られる、その子が好き、振られる、の繰り返しでした。女の子の友達には、こんなにモテない子、見たことない、と言われました。
小学校3年生の時でした。
その時好きだったクラスメイトの男の子がいました。仮に、ウ〜〜ン、Sくんとしておきましょう。Sくんは、当時既にかなり整った顔で、健康的でスポーツ万能、身長も高く、性格も全く嫌味じゃない、サッパリした少年でした。そんな彼の性格もあり、彼とは良好な友人関係を築いていました。彼の人柄に惹かれて好きになるのに時間は掛かりませんでした。
ある日、どうしてそうなったのか、詳しく覚えては居ないのですが、彼が酷い吐き気に見舞われた時がありました。兎に角苦しそうでした。保健室まで歩いて行けないほどでした。彼は、休み時間、窓に佇んで風を浴びていました。彼は生理的に泣いてさえいました。彼の涙を見たのは、これが最初で最後です。
わたしは、彼に声を掛けようとしました、大丈夫?と。いやしかし、どう見ても大丈夫では無いのでした。しかし心配でもあるから何か声を掛けたい、と、彼を見つめました。ハッとしました。
その、苦しそうな、死の匂いさえする、果てそうな、彼の美しさ。口をあんぐり開き、胃から何かを吐き出しそうな、白目を剥きそうな、表情。それは一幅の絵画でした。時が止まっていました。
わたしはそれで確信しました、彼が好きだと、これが本当の恋だと。他の沢山の男の子達を好きになってきたのとは、全く違う、これがわたしのちゃんとした初恋だと。どうしてその姿に強い美しさを感じたのかよく分かりませんが、兎に角、わたしが人間をはっきりありありと"美しい"と感じたのは、この時が初めてでした。
それまで、美術館に行った事が無い訳ではありません。しかし、それまで人物画に対して美しいと思った事はありませんでした(子供の頃なので、漫画の絵などを見てかわいいと思った事は多々あったと思いますが)。
そして、もう一つ芽生えた感情があります。"死にたい"と云ふ気持ちでした。彼に何もできない無力な自分、苦しみを分かち合えない自分、その圧倒的な美しさに平伏す自分、、、、、、、
自分の全てを否定されたようでした。いや、そんな筈は無いのですが、そのくらいショッキングだったのです。
この事をわたしはずっと忘れられず、以来、小学校時代はずっと彼に恋をしていました。転校して離れてもずっと好きでした。4年くらいは好きだったのかな、、、、、、
今思うと、わたしが病的で独特で毒のある人物画を好んだり描いたりするのは、他にも沢山の方の影響を受けては居ますが、この出来事が大きいと思います。
風がびゅうびゅう、お喋りする様に吹く夜です。どうか、充分暖かくして眠って下さい。おやすみなさい、、、